糖質とは麻薬である

糖質あるいは炭水化物が麻薬である、と言うと眉をひそめる人が少なくないでしょう。中には怒り出す人もいるかもしれません。ですがその前に、注意深く本文を読んでみてください。たぶん納得できるのではないかと思います。

そのためにはまず、「麻薬」という言葉の定義が大切です。ここでは4つの側面から定義づけを行います。

ひとつめは、脳の関門を通過するかどうかです。言うまでもなく人体におけるもっとも大切な器官は脳であり、それを守るための関所的な防衛機構が体内にはもうけられています(血液脳関門=blood brain barrier)。脳にとって害悪となるような物質はそこで排除され、特定の物質しかたどり着くことができません。しばしば脳にとって唯一の栄養がブドウ糖(グルコース)であると言われるように、もちろん糖分は脳の関門を突破します。ただ、栄養となりえるのは糖しかない、という考えは完全に間違っており、どこがどう間違っているのかはこれから様々な項目にわたって詳細にひも解いていきます。

ふたつめは、多幸感をもたらすということです。お米をはじめとした炭水化物を食べる、ケーキやお菓子といった甘いものを食べる、そうすると幸せな気持ちになれる。これは皆さんよくわかることでしょう。具体的には、ドーパミンやエンドルフィンといった、いわゆるまさに脳内麻薬として知られる物質が作用します。

みっつめは、離脱症状(禁断症状)があるということです。糖分を摂取すると、それが消化吸収ののち血液中に取り込まれ、結果的に血糖値があがります。すると膵臓(すいぞう)がインスリンというホルモンを分泌し、そのホルモンの作用によって細胞内に糖分が取り込まれます。つまり血糖値が再び下がることになるのです。そして糖分が取り込まれて急激に血糖値が下がったとき、離脱症状として空腹感というものが生まれます。お腹が減れば力が出ません。またイライラして物事にも集中できないでしょう。人によっては眠りにつくことにすら困難を覚えます。その離脱症状は、決して軽いと言えません。

よっつめは、依存性があるということです。多くの人がたいてい一日3回、食事のたびごとに何らかの形で炭水化物を口にしていると思います。日本人なら、お米と食事がセットになっていることが半ば常識と言えるかもしれません。食卓からお米が消える……、そんなことはとてもじゃないけど我慢できないという人が大多数でしょう。つまり習慣性や依存性があるということです。アルコールやタバコを断つのが困難なように、日常的に炭水化物を摂取している人が急に断つのは、かなりの苦痛を伴うと思います。

以上で述べたとおり、糖質とはまさに麻薬的な用件を満たしているのです。

ですが私の言いたいのは、麻薬だから糖質をとってはいけない、ということではありません。その麻薬的な作用によって、ついつい必要以上に多く取りすぎてしまう可能性があるから、もし太りたくないという気持ちがあるのなら注意したほうがいい、ということです。

そもそもなぜ麻薬がダメなのかというと、過剰に摂取しすぎるところにこそあります。

わかりやすく一般的にも馴染みのある麻薬的作用を持つ物質として、タバコとお酒で考えてみましょう。

タバコもお酒も、適度にたしなむなら人体にとって何の害も及ぼしません。むしろ数多くの疫学的な実験や統計データが明らかにしているように、良い影響も多くあります。ですが問題となるのは過剰に摂取したときです。取りすぎれば害となります。

そして取りすぎれば害となるのは、どの物質でも同じです。たとえばただの水でさえ過剰に摂取すれば、死に至ることすらありえます。もちろん水なら普通の状況で、一気に害となるほどの量を飲むようなことはないでしょう。ですが脳の関門を通過し、多幸感・離脱症状・依存性をもたらすような物質は、普通の状況であったとしても過剰摂取につながりがちです。

ただ、つながりがちと言ったところで、必ずしも問題となるかというとそうではありません。むしろ全体の数からすれば圧倒的な少数派です。それはお酒が好きだからといって実際にアルコール依存症になる人はまれであり、同じように重度のニコチン依存症になる人もまれであることからもわかると思います。多くの人はお酒やタバコとうまく付き合っています。

これは日本においてハードドラッグの代表格である覚せい剤ですらそうです。いみじくも一連の芸能人や元スポーツ選手の騒動が明らかにしたように、長らく覚せい剤を常用していたとしても、別に人間をやめるような事態にはなりません。それどころかむしろ、より精力的に仕事をこなしていたと言ってもいいでしょう。実際に人間をやめなければいけないような状態にさせるのは、警察でありマスコミであり社会および周りの人々です。メディアは様々な奇行をあげつらいますが、一般的にその手の奇行は、アルコールによる酩酊状態のほうが多く見受けられるでしょう。

*もちろんだからと言って覚せい剤がいいと言っている訳では当然ありません。社会の一員として法律という決められたルールを守る必要があります。また「人間やめますか」のようなイメージを与えることは、抑止力を考えるならもっとも合理的です。ちなみに言うまでもなく私は薬物のたぐいをやりませんし、タバコはもちろんアルコールも長いこと一滴も飲んでおりません。

少し話がそれましたが、要は糖分を摂取したからといって、みんながみんな太るわけではないということです。そしてちょっとやそっとの体脂肪の蓄積は、なんら問題とするようなことではありません(参照:太っていることは悪なのか?)。

ですが糖質は本来の性質からして過剰摂取につながる可能性があり、それが過度な肥満や糖尿病をはじめとする、俗に生活習慣病と呼ばれる数々の疾病につながる恐れがあることは、知っておくべきだと思います。多くの人がお酒やタバコ、そしてドラッグなら過剰摂取をしがちであるということに意識的でも、炭水化物となると無頓着なことが少なくありません。

人間が本来持つ自然な食欲を取り戻す、そのための第一は、糖質の麻薬的側面に意識的になるということです。

次の項目では、糖質制限ダイエットと言ったとき、多くの場合2つの異なるものが混同されているので、そのことについて解説します。