箱根の共同浴場

長年、庶民に愛された箱根町の共同浴場「上湯(かみゆ)大衆温泉」が、来年1月3日から休業に入る。東日本大震災や箱根山・大涌谷の火山活動活発化などいくつもの苦難を乗り越えてきた老舗だが、客足は年々遠のき、担い手も見つからない。およそ20年、番台に座ってきた柳沢昌子さん(72)は「いよいよ厳しい」と話し、常連客からは惜しむ声が上がっている。

■大震災や火山活発化 乗り越えるも…

 ぱっと見では一軒家のようなたたずまいの上湯大衆温泉は、江戸時代より湯治客が絶えない有数の温泉地、塔之沢地区にある。

 浴槽はこぢんまりしている。およそ3平方メートルで、柳沢さんは「5人も入ったらいっぱい」と笑う。だが、源泉100%の掛け流し温泉を求め、箱根や小田原、平塚、遠くは茨城県から足を延ばす客もいる。

 「温度は高くないが、体がすごく温まるし、関節の痛みも治る。こんなに気持ちいい温泉は他にない」。2002年ごろから毎月6~8回通っているという常連客、湯河原町の男性会社員(65)が上気した顔で教えてくれた。

 ■戦前開業、担い手なく

 柳沢さんによると、開業は戦前。その後、数百メートル離れた現在の場所に移し、柳沢さん一家を含む同地区の有志が共同管理してのれんを守ってきた。

 高齢化による担い手不足で、浴場を畳む話が持ち上がったのは20年ほど前。継続を望む声に押され、管理者に名乗りを上げたのが当時会社勤めだった柳沢さんだったという。

 苦労は絶えない。箱根には日帰り入浴が楽しめる施設が増えた。かつては50人以上でにぎわう日もあったが、現在は1日平均20~30人ぐらい。「少ないときは全然来ない」と柳沢さんはこぼす。

 11年3月の東日本大震災では源泉が埋まり、3カ月ほど温泉が出なくなった。15年5月に大涌谷の火山活動が活発化すると、客がめっきり来なくなった。

 「毎日お金に追われている」とも話す。源泉の温度が低く、40~42度に保つためにボイラーで温めなければならない。かさむ燃料代には年金を充て、何とか切り盛りしている。運営を任せられる他の担い手は見当たらず、週5日番台を務めているが、体力的にも厳しい。

 それでも、続けてこられたのは、常連客の後押しがあったからだ。

 「ゆったりと『裸の付き合い』を楽しめる。一番落ち着く場所」。平塚市の無職男性(69)が初めて訪れたのは20年以上前。今も月10回以上は足を運ぶ。

 男性ら常連客有志は交代で男湯を掃除したり、利用客に効能などをインタビューしてチラシを作ったりして支援に努めてきた。

 「やめられたら困ると思って、皆でいろいろやってきた」。休業には「歴史があるし、もったいない。非常に残念で寂しい」と肩を落とす。

 何度もあった経営危機に屈しなかった老舗には、営業継続を望む声が強い。柳沢さんも「続けたい気持ちはある」と言う。「愛好者や自治会、町などと担い手や資金について相談しながら考えていきたい」と話している。