大衆食堂”化する「ミスタードーナツ」

ナポリタンに肉そば! さらに担々麺!! 
ミスタードーナツのコアなファンなら先刻ご承知だろう。しかし、久しく足を運んでない方がおられれば“百聞は一見に如かず”をお勧めする。あのミスドがいつの間にか、ドーナツだけでなく、ホットドッグ、パスタ、ラーメンまでも販売しているのだ。
ちなみに取り扱っていない店舗もあるという。どちらかと言えば大型店や都心店に足を運べば間違いないようだ。その上で、我々がミスドに対して持つイメージとは、全く異なる新メニューのうち、主要な商品をご覧いただこう。

飲茶=点心は93年に初登場している。なじみ深いのは事実だ。とはいえ、ここまで拡充してしまうと、ラーメン屋のような印象を受けてしまう。
何よりインパクトを感じるのは、やはりパスタだろう。「メニューの選択肢が増えた」と喜んでいる方も、きっといるに違いない。とはいえ、「本業は何でしたっけ?」と質問したくなってしまうのも事実だ。どうしても“迷走”という単語が浮かんでしまう。

「ミスド売上高低迷」の報道
 こんな品揃えになった理由は明確だ。身も蓋もない言い方をすれば、ドーナツが売れていないのだ。
朝日新聞が17年11月1日に報じた「ミスド低迷、新メニューなど打開狙う」の記事は、冒頭から「ダスキン傘下のドーナツチェーン『ミスタードーナツ』の業績が振るわない」と断じた。確かに業績は「17年9月中間決算では、ミスドが大半を占めるフード部門の売上高は183億円で、前年比9.6%減った」とある。
ミスタードーナツは、業績の右肩下がりに苦しんでいるのだ。なぜ売上高が減少しているのか。それに答えるのが読売新聞の「『100円セール』廃止 不発 ミスド売上高低迷」(17年11月1日)だ。少し引用させていただこう。

《ドーナツチェーン「ミスタードーナツ」の売上高が、毎月開催してきた「100円セール」を廃止した影響で落ち込んでいる。今後は、客席のある「イートイン」の店舗を拡大するなどして朝食や昼食の需要を取り込みたい考えだ。
ミスドは約20年前から毎月不定期にドーナツなどをほぼ100円で販売する「100円セール」を導入していたが、期間外に訪れた客から不満が相次ぎ、昨年11月に廃止した。代わって「ポン・デ・リング」など35種類の定番商品を10~30円値下げしたが、客離れが進んだ》
そしてミスドの選択したのが「ドーナツの売上減少分を、他の商品で補填する」という販売戦略なのだ。確かに税込み108円のオールドファッションが不振でも、734円のカルボナーラが飛ぶように売れれば、理論上は今の不振を跳ね返せる。単純計算で客単価は7倍近いのだ。

セブン-イレブンも失敗
ところが、ここで重要な問題がある。一時期はミスドを駆逐するのではないかと言われていたセブン-イレブンのドーナツだが「そういえば最近、見なくなった」と思っている方もおられるだろう。
熱烈なファンなら、現在でもパン売り場に置いていることを知っているはずだ。しかし、大きな話題になっていた時期は、レジ横に堂々と陳列されていた。
実はミスドだけでなく、セブン-イレブンなどコンビニ各社のドーナツも苦戦しているのだ。17年11月29日には「ミスドが食事メニュー拡充 『ドーナツ戦争』下火? コンビニは『レジ横』廃止も 売り上げ低迷、共に転換」という記事を西日本新聞が掲載している。
内容は、これまで見てきた通りのものだ。ミスドはドーナツが売れず、食事メニューの拡充で打開を狙う。コンビニ側もドーナツ売り場をレジ横から移動したり、取扱そのものを止めたりする動きが出ている――と報じた。
この日本人とドーナツの相性が悪いという状況を、専門家はどう読み解くのだろうか。さる外食産業関係者に取材した。
「アメリカでは1950年にダンキンドーナツが創業して順調に拡大しますが、経営陣内部で対立が発生。親族が割って出る形で56年にミスタードーナツを開業します。日本では70年にダンキンが先にオープンし、翌71年にミスドが事業を開始します。しかしアメリカでは90年にダンキンがミスドを吸収合併。日本では逆にダンキンが業績不振で98年に撤退します。この日米の対照的な結果が、日本におけるドーナツ市場の潜在力を示しているのではないでしょうか」(外食産業関係者)

なぜ日本人はドーナツを好まないのか? 
アメリカではミスドとダンキンは併存し、合併しても存続できるだけの市場規模があるわけだ。だが日本では、ミスドとダンキンの合併どころか、共存すらできなかった。単純に考えれば、日本のドーナツ市場はアメリカの2分の1だ。おそらく、日米の実際の差は、もっとあるに違いない。
「結局、この時点で日本におけるドーナツ市場の限界点は見えていたのかもしれません。ミスドは日本におけるフランチャイズビジネスの嚆矢となった1社です。加盟店が非常に多く、とにかくフランチャイズのオーナーに儲かってもらう必要があった。90年代にミスドは中華の点心を出すようになり、これは今でも続いています。ドーナツだけでは日本の顧客を掴むことができないのです。その証拠に2006年にはクリスピー・クリーム・ドーナツが日本に上陸しますが、こちらも撤退傾向です。そして13年にはセブン-イレブンでもドーナツが販売されますが、これも期待されたほどではなかったのはご存知の通りです」(同・外食産業関係者)
老若男女に愛されるイメージのあるドーナツだが、日本の現実は違う。なぜ日本でドーナツが売れないのだろうか? 
少なくとも現在、食事のトレンドは『糖質制限』の時代です。でんぷん質と砂糖が敬遠され、両方を含むドーナツは需要が低下しているでしょう。ビールやラーメンでさえも糖質オフや糖質ゼロの商品が発売され、手堅い需要が証明されています。ミスドが直面している状況は、かなり厳しいと言わざるを得ません。フードメニューの拡充は“迷走”と揶揄されて当然だと思いますが、他に有効な手もないでしょう。客を取り戻すためには『100円セール』の復活も考えられますが、利益率が低下するのは目に見えています」

低価格帯の限界? 
こうした顧客の志向から、近年は健康的なイメージを強く打ち出して人気を博している新興のドーナツ・チェーングループがある。「はらドーナツ」(大阪市北区菅原町)は小麦粉だけでなく豆乳とおからを加えており、どれも国産を謳っている。
ライバル視されることもあるのは「フロレスタ」(大阪市浪速区日本橋)だ。両者とも大阪市というのが面白いが、こちらも「できるだけ国産、有機の材料を使います」と宣言している。「はらドーナツ」も「フロレスタ」も「無添加ドーナツ」と形容されることもあるようだ。
近年、外食産業では「メニューの多様化」がキーワードだという。かつては牛丼中心の吉野家が消費者に飽きられたのが好例だ。ライバル松屋に対抗するためにも定食やセットメニューを増やさなければならない。今の消費者は「選択肢の多い店」を好むのだ。
ミスドにとっては「ドーナツ一筋50年」といったキャッチフレーズが通用しなくなっている。メニューを増やさないと飽きられ、増やしたら迷走と指摘される。関係者の苦労は察するにあまりある。
「一般的なドーナツ市場は限界点に達していると見るべきでしょう。これを打破しようとすると、低価格競争を挑むしかありません。しかしながら、クオリティを劣化される危険性があり、ブランドを毀損する懸念があります。一方で『はらドーナツ』や『フロレスタ』の人気を見ると、6個200円の商品を買う層と、6個2000円の商品を買う層に二極化していることが分かります。『モノを消費するのではなく、価値を重視するコト消費の時代が来る』と言われて久しいですが、遂にチェーンビジネスの世界でもコト消費が人気を呼ぶようになってきたのかもしれません」(同・外食産業関係者)
ミスドの苦境は、八方塞がりと評していいレベルなのだろうか。そして当然ながら、消費者がミスドの苦しさを忖度してくれるはずもない。非常にシビアだ。Twitterで「ミスド パスタ」と検索してみると、賛否両論が拮抗している。ミスドにとっては今年、早くも正念場を迎えたかもしれない。